Shonan

The Wind through pine forest (2009)

「 松 韻 」〜劉生の頃〜

日が暮れてきた。まもなく江ノ島の燈台に灯りが点る。この辺りに大きな旅館があった頃は、部屋から海の向こうに江ノ島が見えていた。

その頃、岸田劉生が6年ほど暮らして、娘や風景を描きまくっていた。劉生が写生をしている時に抜けた風。描いた光。今も昔も変わるはずがない。

僕が生まれ育った芦屋も海辺の町だった。しかし海は埋め立てられ、町は阪神大震災で瓦解した。喪失感を写真集「一年後の桜」で表現したが、心に刻まれた「松韻」が聞こえる風景を探すことにした。

芦屋と同じモダニズム文化を嗅ぎとり湘南に住まいを構えてみた。ここでは「松韻」があちこちから聞こえてくる。しかし、開発による変化は激しく、撮影した場所も次々失われていく。

防砂林の黒松を庭にも植えて景観を作り、自然共生を図ってきた先人達の知恵。それを忘れた持続可能ではない開発。

僕は「松韻」が聞こえる風景を撮る。

地域の大切な資産、守りたい情景、記憶の風景を撮る。