Work in nature

The last work of an old fisherman (2010)

湘南の老漁師の引退

「大きな波には立ち向かって行ったが、寄る年波には勝てない。」そう言って湘南二宮の老漁師が、2010年の春、丘に上がった。

西山敏夫さん、76歳。近年はわかめと昆布の養殖を海の畑で行い、近隣の方々がサポートをしてきた。跡取りはなく、ひとつの「伝承」が絶えてしまう。

高度経済成長から続く都市化の波により、地域の宝である自然資源による生業が、こうして失われていく。人間らしく生きるために、地域社会、地域経済の循環を本気で考えなければならない時代にも関わらず、まだ日本人は目覚めていない。本当は生きる知恵や技術に長けた民族にも関わらず。

どの地域に行っても、便利を幸せと同様の価値と捉えて画一的な都市生活となってしまい、地域の個性豊かな自然資源への誇りと絆を忘れ、本当の幸せ、本当の価値観を見失ってしまっている。これから社会を担う子供たちに、本当の幸せを伝えるにはどうしたら良いのだろう。

西山さんの先祖は小田原の武士、しかし切腹して家名断絶となって屋敷を返上して町人となり、漁師が儲かるからと舟に乗り技を身につけ、今の地に移り当座の住居としてあてがわれたのが長屋門だったため、屋号を長屋と定めて以来五代150年、不漁や不作にめげず営んできた。

50年ほど前には、地引網で鮪のナブラを狙えた時代もあったが、この地の漁は定置網と刺し網だけとなり、今では観光地引網などで収入を得るに至る。

1995年の冬、流域である丹沢の子供たちにわかめの植え付けを手伝ってもらって以来、早春のわかめ刈り、秋のわかめの植付けに、地元や秦野そして横浜の保育所、幼稚園、小学校の子どもたちから海のおじいちゃんと慕われ、400人の孫たちと握手をしてきた。

穏やかに晴れた日。少しウネリがあり足場は不安定だったが、舟いっぱいに昆布を引き上げて、男衆、女衆が待つ丘に帰る。西山さんにとっては、何十年も繰り返してきた夏に近い春の一日。僕は3日間通ってようやく船に乗せてもらい撮影した。西山さんの中にある答えを、少しでも写したくて。西山さんの海上の姿はもう見ることができない。僕は、地域の大切な資産、守りたい情景、記憶の風景を撮る。